会計報告

第1節 月次財務会計報告

月次に試算表を作成するだけでなく以下のような資料を作成することで会計はもっともっと経営に役立ちます。

1.変動損益計算書
変動損益計算書のひな型を掲げます。月次の場合は制度会計にとらわれることはありません。変動損益計算書を作成し、経営管理の面から損益の状況を把握するべきです。表中の損益分岐点、安全余裕率(損益分岐点比率)については別の機会に解説をしたいと思います。
また人員あたりの数字など経営者が心得ておくべき大事な情報ではないでしょうか。


2.資金収支表
特殊仕訳帳方式の英米式会計を採用している場合は比較的簡単に作成できます。
作成の手順を示します。

現金出納帳を集計します
借方 現金 貸方 売掛金
売上
預金
諸口

借方 販管費 貸方 現金
預金
仕入
買掛金
諸口

普通預金出納帳を集計します

借方 普通預金 貸方 売掛金
売上
現預金
諸口

借方 販管費 貸方 普通預金
現預金
諸口

当座預金出納帳を集計します

借方 当座預金 貸方 売掛金
売上
現預金
諸口

借方 販管費 貸方 当座預金
仕入
買掛金
現預金
諸口

これを集計表に移記します.
現金 普通預金 当座預金 合計
前月繰越
売掛金
売上
現預金
諸口
小計
販管費
仕入
買掛金
現預金
諸口
小計
次月繰越

上記の欄の諸口は借入金、受取手形、支払手形、預り金、未払金等になると考えられます。これらの内訳を拾い出して書き込めば資金繰り表となります。

コンピュータを利用している場合はデータ入力時に若干の手間がかかります。

資金収支表(直接法)はいわゆる資金繰表に他なりませんが、単なる資金繰りから経営の観点から資金の動きを見るところに意味があります。

直接法による資金収支表(資金繰り表を経営の観点から少し整理し表示します。)

経常収支
経常収入
 現金売上 
 売掛金回収
 受取手形期日
 その他
経常支出
 現金仕入
 買掛金支払
 販管費
 営業支払手形決済
 その他
経常収支尻

財務収支
財務収入
 借入金増加
 その他
財務支出
 借入金返済
 営業外支払手形決済
 設備投資支出
 その他
財務収支尻
総合収支尻
前期繰越
次期繰越

この表の見方は、受取手形の割引如何によりますが、経常収支がプラス、財務収支がマイナス、総合収支がプラスが最良ということです。
最終的には決算終了後に資金計算書(間接法)を作りますが、月次の場合は速報としての役割を果たします。


間接法による資金収支表
貸借対照表と損益計算書から作成します。発生主義による損益計算書を現金主義による損益計算書に組み替えるというわけです。

経常収支
売上高
 売掛金増減高
 受取手形増減高

売上原価
 買掛金増減高
 支払手形増減高
 減価償却費

販管費
 未払金増減高
 減価償却費

営業外収益

営業外費用

特別利益

特別損失

経常収支尻

財務収支
財務収入
 借入金増加

財務支出
 借入金返済
 有形固定資産増加
 営業外支払手形減少

財務収支尻

総合収支尻


3.売上推移表
当期の簡単な売上予想になります。
この表でのポイントは移動平均の欄です。12カ月の売上が常時集計されているために季節変動が調整されています。したがつて、売上予想が可能になります。
また、上記の数字を対数の目盛りの用紙(片対数グラフ用紙)を利用してグラフ化すればより傾向がわかります。何故ならば、対数の性質より、傾きは伸び率を表わします。従って、企業の成長率を売上成長率で見るとすれば、この12ケ月移動平均線はそのものずばりをあらわすというわけです。エクセルを利用してグラフ化する場合は数値を対数に変換しグラフ化すると簡単になります。す。


4.売掛金動態表及び買掛金動態表
上記の二表などの作成には、パソコンの利用が最適です。
エクセルの利用は会計の分野で有用な情報を提供してくれます。



第2節 期末財務報告

1.比較損益計算書
対前期比較の他に一人あたり対前期比較を必ず加えたいものです。
当然変動損益計算書も作成します。


2.比較貸借対照表
貸借対照表構成比を図形に表現した例を示します。
流動比率、自己資本比率等が視覚的に把握できます。
会社の寿命は30年とも言われています。あなたの会社の現状はどの段階にありますか。

第1段階初期
流動資産10% 固定資産90%
負債90% 資本10%

第2段階中期
流動資産50% 固定資産50%
負債50% 資本50%

第2段階終期
流動資産90% 固定資産10%
負債10% 資本90%

私の事務所で関わってきた事例で言えば大体企業はこういう段階を歩みます。

かなり以前の話になりますが、中堅企業の営業部長職から関連会社の社長職に出向することになった方から、経理はさっぱり分からないのでどう対処して良いかレクチャーをして欲しいとのご依頼がありました。私がお話したキーワードは「比較」ということです。

損益計算書について上から順番に対前期と「比較」します。
売上高は前期と比べての増減はどうか、伸び率はどうか、増減の内容はどうか等々、こうして売上原価、販管費、営業外収益、営業外費用等の各科目について経理の担当者に順次質問をします。

貸借対照表についても同じです。

こうした各科目について対前期との「比較」をすれば自ずから問題点は明らかとなります。

3.資金計算書
最も端的に会社の実力を表わします。
資金収支表の見方でご説明した通り経常収支がプラスかマイナスか、経常収支比率(経常収入/経常支出)の推移がどうかが重要になります。3期も4期も経常収支がマイナスになるようでは当然借入金が増加します。これが改善されない限り企業は存立しえないということになります。




4.売上推移表

  1月 2月  〜 12月  合計
当期           
 累計          
 年間移動          
 前期          


 この数値を普通のグラフ用紙に書き込むには数値の範囲が広くて不可能です。これにたいおうするため目盛りが対数の数値で記されているグラフを使用します。対数の効用は際立っています。例えば売上の数値が10000から10100、販売管理費の何かの費目が100から200に増加したとします。増加額は同じ100ですから通常の数値のグラフでは傾きは同じように表示されます。しかし、増加率は大きく異なります。これが対数の目盛りでは視覚的に表現されるのです。こうして当期、累計、年間移動の数値が対数の目盛りのグラフに表示されますとZ型になるためzチャ−トと称します。

 このZチャートを当期だけでなく3期から5期連続してグラフにすると会社の成長性をよく示します。また、このグラフを特定分野に、例えば製品別に作成すれば問題はよりはっきりします。


5.経営分析表

コンピュータを利用している場合は入手は容易です。中小企業庁の経営指標等と比較してみるのが大事です。
しかし、この表での各指標は外部からの第三者が利用するもので、当該企業の経営者としては参考程度で取り上げて良いのではないかと思われます。
比較貸借対照表、比較損益計算書、資金計算書の徹底した検討で当該企業が抱える問題は明確になるのではないかと思われます。

6.売掛金動態表年間集計表及び買掛金動態表年間集計表

これらの諸表から利用できる情報は沢山あります。
また、パソコンを利用している場合はこれらの諸表を加工して得意先別年間売上順位表等を作成することも簡単です。

7.株価計算書

定期的に株価を算定します。借入れにより工場用地の取得や設備投資等を行なった場合など株価が下がる場合があります。この様なときに長期的な目標にそって株式の移動を行なうなどの手段を講じます。節税は決して一時的な方法では対応できるものではありません。

上のような経営資料を定期的かつ継続的に作成して経営者に提供することが経理部門の大切な役割であります。


あとがき
私達の事務所のモットーは絶えず創意工夫をしてクライアントに有益なサービスを提供することです。原会計事務所が創設されたとき、原と柳瀬の共通の知人であった当時新進の会計学者のW先生から、先生が、アメリカの監査の歴史を研究されていたとき、アーサーアンダーソン会計事務所の社史に「我々の事務所の発展の原動力はスモールビジネスだった。」と記述されている事を教えていただきました。またアーサーアンダーソンが、クライアントの経営者に出す報告書がほしいがために多くのスモールビジネスが顧客となったというのです。そんなことから原会計事務所も顧客に役に立つ会計情報を提供する事務所になってほしいというのが私達の事務所の創業の時に頂いた励ましの言葉でした。原先輩が平成20年7月に亡くなりましたが、柳瀬としてはこうした我々の歩みを後輩諸君に引き継いで貰い、もっともっと大和会計社を充実して欲しいと念願しています。’12/4/26加筆)


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