私は1977年に「低成長下の財務管理」というパンフレットを書いて、事務所の顧客獲得や職員の指導に使用してきました。原先輩が罫線を引いて多桁式の現金出納帳を作成しこれを特注印刷をしました。二人はこうした会計のシステムを「英米式会計」と名付けJDLのオフイスコンピューター導入までクライアントを指導しました。 日本において明治に複式簿記を紹介したのは福沢諭吉の「帳合いの法」と言われています。このシャンドの「帳合いの法」は銀行簿記の紹介です。 銀行簿記はもっぱら入金伝票、出金伝票、振替伝票、日計表を使用するもので、日本の会計実務は銀行に限らず商業等すべてシャンド式から出発した為欧米と比し特異な発展を遂げました。 学校で簿記を学んだ場合、最終的には特殊仕訳帳を中核とする帳簿組織を学習するのですが、日本の実務界では全くといっていいほど採用されていません。かような次第で日本では伝票に関する実用新案登録は枚挙にいた間がないくらいでミロクの複写伝票などその代表例かと考えられます。 日本の会計実務はおおよそ次のような(1)入金伝票出金伝票振替伝票等のシャンド式会計、(2)複写式伝票会計、(3)シャンド式会計を基礎としたコンピュータ利用という段階を踏んで発展してきましたが、私共の事務所は「特殊仕訳帳を利用する英米式会計」、英米式会計を基礎とするコンピューター利用という道を歩んでいます。 コンピュータもまだ一般的でなかった時代私達はこの英米式会計を紹介し、会計実務の実践として英米式会計を私達の事務所の会計実践として推賞して参りました。 あれから30年、企業会計をとりまく環境の変化には驚くべきものがあります。コンピュータを始め多彩なOA機器の登場であります。私どもの事務所でもコンピュータの導入による生産性の向上には目を見張るばかりです。事例報告として日本経済新聞社刊OA年鑑に当事務所をご紹介いただきました。しかし、財務管理の根本はいささかも変わりありません 長期目標を立てること 経営状況を早く把握すること これらのことがしつかりしていれば、経営戦略もおのずと生まれてきます。 例えば、タイミングのよい設備投資が適切に行えます。 また、後継者対策にしても定期的に株価を算定して株式の移動が出来ます。 こうした地道な努力の結果が節税なのであります。 そしてそのためにも日常の財務管理がその出発です。 経理部門におけるコンピューターの利用は当たり前の事となっています。ここではその基礎の基礎を書いてみます。 第1章 財務管理の基礎の基礎 1.入出金の処理について 入金処理−−−売上、預金引出、雑収入等について入金伝票を起票します。 出金処理−−−経費の支払、預金預入等について出金伝票を起票します。 出金については必ず伝票を起票しなければならないというわけではありません。領収書があれば領収書等を伝票に添付しまして伝票起票に代えるわけです。この方法によりますと証憑の整理にもなります。入出金伝票は証憑を添付する都合から大判のものが最適です。(日本法令の伝票をお勧めします。) 現金日報−−−現金については毎日一定時に現金実査を実施する。少額の場合はこの段階で発見できなければ以後は発見不可能です。 これらの伝票を日付順にフアイルします。こうすると現金出納帳の記帳が簡単になります。コンピュータ処理の場合でも現金出納帳の作成は欠かせません。 2.現金出納帳記帳の要領 こうして綴り込まれた現金の入出金伝票から現金出納帳を記帳することになります。現金出納帳の記帳の仕方は次の通りです。 日付欄−−−日付を書き入れます。同一日付で取引が幾つかある場合、日付を省略して「〃」の記入をしてもかまいません。 ただし、出納帳のペ−ジ毎に年度の記入は忘れないようにして下さい。 後日帳簿を締め切り保存するときに大事なことです。 科目欄−−−科目名を書き入れます。これは科目印を押す方が明瞭です。 科目名は出来るだけ取引の内容に即して決定します。 経費などは決めかねる場合安易に雑費扱いとすることがありますがこれは感心できません。交際費にするか会議費にするかで節税につながる場合もあります。 科目については巻末に一覧表を掲げますので、ご利用下さい。 摘要欄−−−相手先を書き入れます。これは、相手先が一目で判断できる程度で結構です。株式会社とか有限会社のフルネームは不要です。梶A汲ナ充分です。また、東京電力、東京ガスなどは全て不要です。電気料、ガス料で判断できるからです。この記録だけでも信憑性は格段に増加するのではないでしょうか。 例えば、事務用品代とか、電気料とか、ともかくその取引内容が判断できる程度に記入します。 この場合、継続して支払うものは、何月分かということを忘れずに記入することが大切です。電話料、電気料、ガス代、賃借料(家賃)、顧問料等の場合にこれを欠くと画龍点晴を欠くことになります。 金額欄−−−入金は入金欄、出金は出金欄に書き入れます。 数字の大きさは行の幅の三分の一程度の大きさが目安です。数字の記入が間違えてもナイフや砂消しゴムで削ったり紙を貼りつけたりしてはいけません。 第三者に不審をもたれることになります。特に、税務署の調査の場合などには、あらぬ疑いを懸けられるもとになります。 したがつて、間違えた場合には、赤のボールペンで二重線を引いて訂正をした上に正しい数字を書き込みます。四行とか五行とかを訂正する場合でも同じです。この様な場合には、次のような方法もあります。 同じ大きさの紙を用意し、その一端を張り付ける方法です。その下の個所は見えるようにしておくわけです。張り付けた部分に訂正した記帳者が割印を押してその責任を明らかにするわけです。 残高欄−−−残高は1行毎に計算する必要はありません。一日毎に計算すれば充分です。この残高を計算すると次に手元の現金残高と突き合わせることが大切です。これでその日の入金、出金の記帳漏れが発見できるわけです。 3.現金出納帳記帳上の一般的注意 現金出納帳に限らず、会計帳簿の記入は、インク、ボールペンによらなければなりません。鉛筆書きはその信憑性の点からも問題があり、避けなければなりません。また、たまたま記帳漏れが発見された場合でも、発見された日現在現金出納帳への記帳を行い、摘要欄に真実の取引日を記録するだけで充分です。現金出納帳を書き換えたり日付を合わせるため当該日付欄に無理に記帳する必要はありません。 帳簿はきれいに記帳しなければなりませんが、この事にこだわる余りメモ書きを用意して清書をする事例もありますが、これは厳に避けなければなりません。二重帳簿を予想され不審をもたれるもとになります。 2.当座預金取引の処理について 通常は預入れ、引出しの場合は振替伝票を起票しますが、必ずしも絶対的な条件ではありません。しかも、起票には若干の複式簿記の知識が必要になります。そこで簡便な方法として次のような方法をお勧めします。規模にもよりますがこの方法で充分に間に合います。英米式会計では当座預金出納帳を特殊仕訳帳として利用し、ここから合計仕訳をするのが一般的です。 預金預入れ−−−振込案内、当座勘定入金帳 預金引出し−−−領収書その他の証憑 これらを日付順に綴り込みます。これをもとにして当座預金出納帳に記入します。どんな会計方式を取る場合でも、小切手帳控には日付、相手先、金額、摘要は必ず記入しなければなりません。また、書き損じた小切手は番号欄を切りとり摘要欄に貼っておくことをおすすめします。 2.当座預金出納帳記帳の要領 当座預金の預入れ、引出しの記録から当座預金出納帳に記入することになります。 当座預金出納帳の記帳の要領は次の通りです。ただし、日付欄、科目欄、摘要欄、金額欄の記帳要領は現金出納帳の場合とまったく同様です。 違うところといえば次のような点です。当座預金出納帳記帳の場合は小切手の番号を摘要欄の最後尾に下3桁の数字を書き入れることが大切です。 これにより照合表と突き合わせる際突合せが容易となります。 第3節 普通預金取引の処理について 当座預金取引と同様直接通帳から記帳します。振替伝票を起票する場合は二重仕訳に注意しなければなりません。従って、特殊仕訳帳として利用する簡便な方法で充分です。 入金は振込、現金預入れ、受取利息処理等に大別されます。出金は現金引出し、公共料金引き落し等に大別されます。証憑はフアイルして綴り込みます。 4.受取手形取引の処理について 受取手形記入帳は必ず市販の物を利用しなければならないという理由はありません。会社の実態や、資金管理の面での利用を考えて帳簿の様式に工夫する必要があります。帳簿とはいってもコクヨの集計表で充分です。 ただし、どの様式でも、日付、相手先、金額、期日取立、割引、裏書譲渡の場合にはその顛末を摘要欄に正確に記入する必要があります。 5.支払手形取引の処理について 受取手形処理と同様です。 支払手形帳控に日付、相手先、金額を記入しておかなければなりません。 支払手形帳の管理も注意しなければなりません。 6.売掛金、買掛金の管理方式 規模にもよりますが、売掛金、買掛金の処理は最終的にはコンピュ−タの利用をおすすめします。しかし、その前に準備段階が必要です。経営規模が拡大してからの導入は経営に混乱と負担をもたらします。 そのために取引量が少ない段階から、準備段階としてパソコンの導入を考えられたら如何でしょうか。販売管理や給与計算のソフトにも利用可能なものがたくさんあります。内容が不十分でも使いこなすうちに、業務の内容の検討にもなります。コード化もいざ実行するとなると様々な問題がでてきます。 こうした準備段階を経ての導入であれば、システムの発注でもシステムエンジニアに具体的な注文が伝えられます。そのほか、ワープロ(代表的なソフトとしてはワード、一太郎)にも表計算(代表的なソフトとしてエクセル)にも利用できるわけですから、安いといえば安いものです。 売掛金買掛金の管理についても必ずしも帳簿方式にこだわる必要はありません。会社の実情に合わせて創意工夫をこらす必要があります。 買掛金についていえばフアイリングキャビネツトあるいはハンガーホルダーを利用することも考えられます。納品書、請求書を別々に綴り込み、支払い時に両者を突合せ支払一覧表に記入するわけです。 納品書、請求書の細かい内訳を買掛帳に記帳する労を省いて、むしろその照合に力を入れるというわけです。 この支払一覧表等から買掛金動態表を作成するわけです。 買掛金動態表の作成についてはパソコンを利用すると事務の能率が上がります。エクセル、を使った一例を示します。 エクセルを使えば12枚の表を集計することは簡単に出来ます。 得意先別年間売上順位表、売掛金回収状況表等各種の経営資料が容易に作成できます。 私達のこれまでの経験から申し上げますと、これまでの経営分析(比率分析をもっぱら指しますが)も一つの方法ですが、上記の表など経営戦略の観点からいえば有益な資料ではないでしょうか。 売掛金動態表、買掛金動態表については現金出納帳、当座預金出納帳、普通預金出納帳、受取手形帳、支払手形帳と相互に突合せを行ないます。 私どもの事務所では売掛金動態表、買掛金動態表は特別に作られた簡易な帳票を利用しています。 7.コンピュータに入力されるデータ ここで起票される振替伝票は簿記でいう普通仕訳帳に当たります。特殊仕訳帳である現金出納帳、当座預金出納帳、普通預金出納帳、受取手形帳、支払手形帳から直接データをコンピュータに入力します。 この場合各出納帳に関係する取引(二重仕訳といいます)に注意をします。 売掛金動態表、買掛金動態表を特殊仕訳帳として次のような仕訳が振替伝票に起票されます。 例として掲げます。 (借方)売掛金 (貸方)売上 (借方)支払手数料(貸方)売掛金 (借方)仕入 (貸方)買掛金 (借方)買掛金 (貸方)支払手数料 (借方)買掛金 (貸方)売掛金 これらのいずれにも該当しない取引は、振替伝票に起票されます。 (借方)減価償却費 (貸方)減価償却引当金 これらの例で示されるように振替伝票を一般仕訳帳として利用するわけです。 この会計処理は当然売上や仕入に別途コンピュータシステムを利用している場合にも利用できます。 また、小規模な場合は売掛金、買掛金の枝コードを設定することで補助元帳が作成できできるコンピュータシステムがあります。 現在、中小企業を主なクライアントとして関与する会計事務所で利用されているコンピュータは圧倒的にJDL、ICS製のオフコンです。使い勝手がよいのですが値段が高いことが難点です。ウインドウズ上で動作する会計ソフトであれば大同小異で格別変わったものではありません。私共の事務所ではセイショウシステムテクノロジー社の標準財務会消えシステムを推奨しています。 第3章 証拠とはなにか 1.証拠の意義−−−特定の事実の存在、不存在あるいは正否等を裏付けるものを証拠といいます。 2.証拠の分類−−−証拠はいろいろな観点から分類されます。 (1)形態別分類 文書的証拠−−−領収書請求書等 物理的証拠−−−現物 口頭的証拠−−−証言 (2)機能別分類 直接証拠−−−−直接的に挙証されるもの 間接証拠−−−−間接的にしか挙証できないもの (3)入手場所別分類 内部証拠−−−−内部から提供されるもの 外部証拠−−−−外部から提供されるもの 3.証拠力 同じ証拠でも事実を立証する度合に強弱があります。これを証拠力といっています。 証拠の分類に即していえば、出来る限り 文書的証拠−−−直接証拠−−−外部証拠 という組み合せが最良なわけです。 会計では証拠について言えば何もしないで存在するもではなく作るものであるとさえいえます。 4.実務上の対応 こうした証拠とか、証拠力とか、証拠の分類とかを取り上げたのは会計及び税務におけるその重要性を認識していただきたいからです。 証憑というと直ちに領収書を思いうかべますが、けっして領収証だけに限らないことがおわかりいただけたかと思います。 例えば、株式の移動の場合には株価の算定に関する書類に確定日付をとる等して証拠を用意する事などが大切です。 6.英米式会計は証憑の検索に便利です 英米式会計方式を取りますと証憑が特殊仕訳帳(現金出納帳、当座預金出納帳、普通預金出納帳、支払手形帳、受取手形帳等)毎に整理されて検索に便利です。特集仕訳帳間にまたがる取引についての証憑はそのどれかに綴り込みます。 場合によればコピーをして各証憑綴りにフアイルすると大層便利です。 証憑の整理保存突合に重点が移ります。 会計資料の作成と同時に証憑の整理が行なわれます。 この様な方式を採用すると証憑に対する関心が高まります。 まとめ 多桁式帳簿のことをかっての職場の同僚や後輩達、又、同業の方にお話しをしますと大体の方が経験があるようです。ただし、これはコンピューターが普及する以前の話ですから現金出納帳や預金出納帳を特殊仕訳帳としての位置付けと言うより省力化のための集計機能として理解していたことと思われます。具体的に言えば販管費をすべて展開して集計するということなのですから私達の事務所で特殊仕訳帳として位置付けて本来の会計システムとして利用していたこととはまったくことなる訳です。 コンピューターの利用が一般的と成った現在では多少状況は異なりますが、中小企業の会計において英米式会計システムの重要さはいささかも変わりありません。 |