山のことあれこれ
山登りのコツ
 登るときはあまり先を見ないことが肝要である。あまり先を見ると気持ちがはやりバテてしまう。あんな高いところまで登るのか。あんな遠いところまで歩くのかと気持ちが萎えててしまう。そんなことで5、6メートル先を見て確実に登ることだ。うつむき加減で足元を見て歩き、ときどき立ち止まりあたりを見廻す。急登につぐ急登の場合は25分歩いて5分休む。尾根道であまり登りくだりが無い場合は50分、あるいは55分歩いて10分、5分休むという繰り返しが大事だ。これが私の歩くスタイルだ。また、大きなピ−クを越えるときは数を数えるのもひとつの方法だ。「苦あれば楽あり山の道」、後沢乗越で道標に書かれたこんな落書きを見たことがある。尾根歩きでは一つピークを越えると意外と楽な道となることがある。そこでピークを越えるときは数を数えることだ。一、二、三と数を数えて100になると指を折るのだ。500から1000でたいていのピークは越えられる。上ばかり見て歩くと気ばっかりあっせてしまう。苦しくてもこうして500か1000でピ−クを越えるようにしないとペースがくずれて歩けなくなってしまう。こんなことが私の山登りの経験からえたコツであろうか。当たり前の事だが山は登ればくだらなければならない。しかも山登りにおける一番大きな問題はこのくだりなのだ。登りきった安堵感からなんとなく緊張が途切れる。加えて疲れもある。中高年者の山の事故は大半がこのくだりでおきているようである。かく言う私も昨年5月に(’04年5月)に丹沢で登山道から足を踏み外し、1週間入院し、リハビリに2ヶ月近く掛かるという事故を起こした。登山口までわずか30分足らずで着けるという地点でである。急がない。最後まで気を緩めない。とにかく確実に一歩一歩歩くしかないのだろう。
 以前、80歳近くの知り合いの老人に山紀行一編を送ったことがある。後ほど返書をいただいたが、こういう山歩きのコツに言及して書中に「人生かくの如し」とあった。もとより人生と山登りが同一の範疇に入る話ではないが、私の乏しい経験からもなるほどと首肯できるところはあるようだ。そんなことで、最近、職場の後輩の結婚式でスピ−チを頼まれてここに書いたような話をした。前半の登りの部分は若い彼らの参考にしてほしいと思うが、後半のくだりの部分は私自身の問題だ。 この事故以来、人生の折り返し地点からの難しさを痛切に思い知らされた。

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