★ 長年の日本政治ウォッチャー、米コロンビア大のジェラルド・カーティス名誉教授が23日、東京・有楽町の日本外国特派員協会で苦言を交えて語った。「日本のチェックアンドバランス壊れた」 (発言は英語。構成は専門記者・藤田直央)
 
 安倍晋三首相が衆院を解散したのは、議員任期の4年間さらに首相を続けたいからだ。加計・森友問題を避けるためといった批判もあるが、彼は首相の解散権を賢く使った。議院内閣制とはそういうものだ。
 それでも希望の党が現れて自民党に危機感が走ったが、野党の分裂で地滑り的に勝った。自民党はラッキーだった。野党が協力すれば自民党は40~60議席を減らし、安倍首相は辞めざるを得ないと私は思っていた。小池百合子代表がそれを吹き飛ばした。
 1人が当選する小選挙区制では、政党は支持を求める有権者の幅を広げないといけない。中道から右の自民党に対抗するなら、中道から左だ。だが彼女は、合流を求めた民進党でリベラルな人たちを排除した。傲慢(ごうまん)な姿勢を示し、安倍首相に向いていた傲慢だという批判も弱めてしまった。
 彼女自身が衆院選に出なかったことも、「希望の党は政権を取れない。代表が首相になれると思っていないから」というメッセージになり、希望のない党になってしまった。次の衆院選までになくなりかねない。
 野党第1党になった立憲民主党は、無所属や希望の党からの離党者も入れて党勢を拡大しない限り、明るい未来があるとは思えない。枝野幸男代表は永田町での数あわせはしないと言う。草の根政治を語るのはいいが、政治で権力を求めずに何を実現するのか。
 安全保障政策も問題だ。彼らは集団的自衛権の行使を認めた憲法解釈の変更や、それを前提とする安全保障法制に反対している。政権を取れば日米関係に危機を招きかねず、自民党に代わる大きな政党の核にはなれないだろう。
 戦後日本政治の大きな問題なのだが、なぜ自民党に対する真の挑戦者が生まれないか。政治学的には、小選挙区中心の衆院の選挙制度は日本になじまない。二十数年前に政権交代可能な二大政党制を目指して導入されたが、いま8党もある。冷戦下では社会主義を掲げる強い野党があったが、いま野党は何をしようとしているのかわからない。
 このままでは、一党支配か、政権交代があってもスキャンダルによるものになる。日本のように貧富や民族などで社会的に深い溝がない国では穏健な多党制がふさわしい。複数が当選する中選挙区制に戻すか、政党に投票する比例区の定数を増やすのが適当だ。
 もう一つの大きな問題は民主主義制の下でのチェック・アンド・バランスだ。日本政治ではかつて自民党内で首相の座をめぐる派閥間の競争があり、対抗軸として市民団体と連携した社会党があった。官僚組織にも自律があった。それがここ数年で破壊された。
 首相官邸が自民党と官僚を支配している。これほど官邸が強かったことはない。政策は自民党ではなく官邸が主導し、人事を握られた官僚組織は忖度(そんたく)している。大統領制的な官邸主導を目指した1990年代の橋本政権での改革が、小泉政権に引き継がれ、安倍政権で強まっている。
 新たなチェック・アンド・バランスが必要だ。安倍政権で国民は必ずしも幸せではないが、野党は割れている。安定していてもチェック・アンド・バランスのない支配は健全な民主主義ではない。野党がまとまり役割を果たすべきだ。
 ただ、今回の衆院選で自民党が勝ちはしたが、安倍首相が掲げる憲法改正は進まないだろう。
 改憲は彼の信条だが、彼は現実主義者でもある。改憲の発議に必要な衆院、参院の3分の2以上に改憲しても構わないという声はあっても、具体的に何を変えるべきかの合意はない。9条を変えるのは最も難しい。無理に進めれば国会で非常に感情的な議論になり、何も生まれない。
 安倍首相が勝ってもうれしそうでないのは、小選挙区制では有権者の移り気で政権交代が起きかねないと今回改めて感じたからだろう。政権復帰から5年、自公両党は衆院で3分の2を保ってきたが、発議へ動かなかった。それをなぜこれから4年でできると言えるのだろうか。(発言は英語。構成は専門記者・藤田直央)
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この記事を読んで日本の未熟な政治風土を考えると暗澹たる気分となった。北朝鮮の問題があって国民もやっぱり自民党と考えたのだろう。以前、教授は時代の波に乗ったら容易に変ええようとしない国民性を指摘しておられた。第二次大戦が終わった時の総選挙で保守党から労働党に乗り換えたイギリス国民の政治感覚とは雲泥の差がある。現在、日本経済が直面する問題は容易ならざるものがあると思う。とりわけ人口が減少してゆく中なので問題の深刻さは想像以上だ。簡単に北朝鮮に対抗すると言っても防衛力の強化は財政の面から制約があり、徴兵制でも敷かない限り人的な面でも出来る話ではないと思う。加えるに習近平体制下の中国に対峙するためにも日米安保体制は欠かせない。いい加減に成熟した政治感覚を身につけなければならないのではないだろうか。
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