(波聞風問)異次元緩和 黒田日銀がはまった罠 原真人
(2016年7月5日朝日新聞朝刊)を読む 
 日本経済は現在重大な局面に直面しているようだ。朝日新聞・東洋経済を読んでいるだけであるが、危機感をひしひしと感じる。

今日、朝日に掲載された編集委員原眞人氏の「異次元緩和 黒田総裁がはまった罠」という記事には深く考えさせられた。

☆「この現状を第2次大戦時の旧日本軍になぞらえ、「ついにインパール作戦に踏み込んだ」と指摘する声を複数の経済専門家から聞いた。」

☆「当時、大本営は国威発揚のため楽観的な見通しばかり発表し、作戦の失敗を国民に明らかにしなかった。いまの日銀もまた目標実現や緩和効果について根拠に乏しい楽観的な大本営発表を続けている。」

☆「旧日本軍を組織論から分析したことで有名な著「失敗の本質」によると、突進一点張りで始めた無謀な賭け、しなくてもよかった作戦だった。」

☆「私が知るここ数代の総裁会見とくらべ、黒田氏の記者会見は明らかに説明責任の態度を欠いている。会見時間はたっぷり取るが、お定まりの答弁を繰り返しているだけだ。」

☆「黒田氏は異次元緩和が直面している厳しい現実を正直に語っていない。日銀の国債買い支えが安倍政権の財政規律を失わせ、消費増税の延期や過剰な財政出動を生む土壌になっていることにも口をつぐんでいる。」

 ここに書かれていることは看過できない重大なことだと思う。私が今読んでいる「ロ-マ人の物語」(塩野七生)の何巻目かに要旨次のような記述があった。

「戦争という国家の一大事において、戦争の開始、遂行、戦後」というその過程にその民族の有する全てが端的に表れる」

 私は学生の時マックスス・ウエ-バ-の著作を読んで以来、私の関心事はこのこと、すなわち日本の社会とはなにかを考えてきたことににあるのだ。インパ-ル作戦については「大東亜戦争全史」(服部卓四郎)、インパ-ル」「抗命」「戦死」「全滅」「憤死」(高木俊朗の5部作)に、日本軍を組織論的に分析した「失敗の本質」(野中郁次郎等5氏の共著)等々に詳しく記述されている。文芸春秋の別冊号に我が社とそっくりだとの声が寄せられていてなるほどと思ったことがある。最近、ジェラルド・カ-テイス教授が指摘したように日本人の「勝ち馬に乗る」とか、「時流に乗る」という国民性とも言うべき性格がこういう大事な局面にも顔をのぞかせるのだ。私のごとき一市井の老人が言うのもおこがましいが、戦前の高名な朝日新聞陸軍記者の高宮太平の著書「昭和の将帥(回想の軍人宰相たち)」中の広田弘毅の章に出てくる、緒方竹虎の言葉を持ってすれば「だから役人上がりは困るんだ」となる。とにかく黒田東彦氏は役人としては能吏であったかもしれないが日本銀行総裁になる人物ではなかったということである。
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