山 紀 行

男体山&太郎山

「我が国の名山には偉い坊さんによって開かれたものが多いか、大いていは伝説めいている。その中で記録のー番実証性のあるものは、日光の男体山である。その初登頂は、今から約千二百年前の天応2年(782年)3月勝道上人によって果たされた。..
すべての湖はその傍らにそびえ立つ山の姿で生きてくるが、中禅寺湖と男体山という取り合わせほど過不足なく、彼我助け合って秀麗雄大な景色を形作っている例も稀れである。天の造形の傑作というほかない。中禅寺湖が男体山の表口となるのは当然であって、湖畔にニ荒山神社が祇られている。.,..
頂上は細長く鎌の形に伸びていて、眼下何十丈の深さに爆裂火口が落ち込んでいたが、これは湖畔から眺めただけでは想像出来ない男体山の荒々しい姿であった。」(深田久弥「日本百名山」)

今回の男体山、太郎山で今年の日光シリーズは終了だと 来年は唐沢避難小屋、志津避難小屋を利用して女峰山、大真名子山、小真名子山と歩く予定だ。

第1日目
日光には先週行ったばかりだが、交通費も意外と安いことを知った。そんなことでニ週続けての日光だ。下丸子を始発で出れば蒲田も上野も順調に乗り換えられる。浅草に6時には到着、余裕で6時20分発の快速東武日光行きに乗り込む。車中で朝食を食べて後は居眠りだ。東武日光でも東武バスは全員席に座れる。先週もそうだが東武バスは乗客が多ければ臨時のバスが直ぐに来る。日光が東武の牙城なのだろう。当たり前のことだろうがこんなことがとにかく嬉しい。中禅寺湖のニ荒山神社中宮詞でおりる。バス停前の正面の階段は通行禁止だ。右手の階段を上がり社務所で記帳をして初穂料500円を納める。9時30分出発だ。登拝門をくぐり緩やかな斜面を登る。明るい斜面は緑も鮮やかで林床は低い笹に覆われている。この斜面を登りきれば三合目だ。ここをあがれば車道に出る。ここから車道を歩く。時々大型のダンプカーが通行する。男体山は大きな崩壊地が何ケ所かあり、その工事用車両だ。それにしても三合目から四合目こかけてこんな立派な道路があるとは興を欠くこと甚だしい。やがて四合目だ。鳥居がありここからまた山道だ。ひとしきり樹林帯の道を登ると大きな岩が折り重なった斜面に出る。ここを登る。八合目だ。ここから緩やかな斜面になる。樹林帯を抜けると火山特有の赤っぽい砂磯の道になる。やがて山頂だ。時計を見ると1時9分た。この山頂は意外と広い。「頂上は細長く鎌の形に伸びていて、眼下何十丈の深さに爆裂口が落ち込んでいたが、それは湖畔から眺めただけでは想像出来ない男体山の荒々しい姿であった。」と深田久弥は書いている。座り込んで食事をする。時折雨がぱらつくが、本格的な降りにはなるまい。あわって皆さん下山されて行く。人影が少なくなった山頂をあとにする。影の少ない、道をひとしきり下ると先行組に追い付き出す。ゆっくり、ゆっくりと思うがどうしても早くなる。自慢ではないがどこの山でも大半の人達を追い抜くのだ。この後、堰堤が見える。時間も早いし、こうなるとコンクリートの上で昼寝だ。ここもそうだが、日光の沢にはどこにも水がない。火山特有の地質で水が全部しみ込んでしまうのだろう。笹をかき分けて少し下ると屋根が見える。志津避難小屋だ。志津宮という小さな神社がある。この小屋はこの神社の社務所も兼ねているようだ。大半の人はここからどんどん<だつて行く。ここを利用すると翌日の行動がとにかく楽なのだ。今夜泊まるのはー人かもしれない。とにかくザックを置いて寝る場所を決めてあたりを散策する。小屋の横の水場は固れていて利用できない。笹をかき分けて沢筋を覗いてみる。水はどこにもない。とにかくこのあたりは水場が少ないようた。ここから10分も歩けば林道に出る。小屋に戻るとやがて年配の男性がー人来られる。唐沢避難小屋を利用して女峰山、小真名子山、大真名子山と縦走されてきたそうだ。来年はこのコースだ。こんどは中年男女二人がくる。このニ人は先発隊で、後続は林道に車で来ているそうだ。一人と思いきや賑やかになりそうだ。水場が近くにないのが残念だ。夕食と朝食で水は必要だし、明日は太郎山に登るとなると水を汲んでおいたほうが気持ちは楽た。意を決して梵字飯場跡の水場に向かう。かなり歩く。途中、自動車の音がして先ほどの人達だ。乗せていただく。車中で話をすると、埼玉から来られたそうた。ありがたい。水場までかなりの距離がある。なかなか着かない。乗せてもらい本当に助かった。水場では林間から引かれた黒いホースから冷たい水が出ている。埼玉組はお米を研いだり、野菜をきざんだりで大人の飯ごう炊さんの趣だ。水加減はこの位かしらと奥さん連中に聞かれて困ってしまう。晋段は電気炊飯器でご飯を炊いているのであろう。とっさになるとあわててしまうのだろう。水も2リットル汲んだ。これで明日の水は大丈夫だ。帰りも車に乗せていただく。小屋に戻る。お湯を沸かして味噌汁を作りおにぎりを食べる。埼玉組は魚を焼いている。なかなかのご馳走た。こちらの粗末な食事をみていたのか、ビールとおつまみの差し入れがある。食事の後は早々にシュラフにもぐり込む。あたりが暗くなってからまた3人来る。今夜、この小屋に泊まるのは総勢11名だ。

第2日目
朝、物音で目を覚ます。今日も天気は良さそうだ。起きて外に出てみる。埼玉組が小屋の前でラジオをかけて体操た。なんだか可笑しくて笑い出しそうた。あまり見ているのもわるいので小屋に入って中で簡単な食事だ。6時20分志津避難小屋を出発する。大真名子山登山口に数人の登山者が見える。皆さん自動車で来ている人達だろう。あたりには自動車が何台も駐車している。林道歩きだ。下からどんどん車が来る。7時20分林道の入り口に太郎山登山口の大きな標識を見る。林道をどんどん歩く。しかし登山口がなかなか見えない。少々不安になる。ふっと先に軽装の若いアベックが見える。背中のザックを見ると間違いない。車で来たようた。やがて太郎山登山口の標識も見える。山道に入って直ぐ二人を追い越した後、人には会わない。樹林帯の緩やかな登り道だ。いよいよ岩場だ。このあたりからおりてくる人に会い出す。どんどん高度を稼ぐ。この岩場をひと登りすると樹林帯から出たようだ。急に視界が開ける。ここが新薙ノ頭か。ガレ場を2ケ所水平に横断する。また樹林帯だ。ここを抜け出ると広い火口原に出る。まるで広場のようだ。ガスが濃い時はこういうところで道に迷いやすいのだ。地図ではお花畑とある。ここを横断して大きな岩の間を抜けると樹林帯だ。シラビソの樹林帯をひと登りすると山頂だ。人が大勢いる。ハガタテ薙から登った人達のようだ。このコースは大半の人がハガタテ薙尾根から登り、新薙ノ頭へとおりて行くようだ。どうも逆コースから登ってきたようた。ただ残念ながらガスで展望は利かない。食事もしたし、充分休んだ。出発だ。小太郎山は気が付かなければそのまま通過してしまいそうなピークだ。ひとしきりくだるとハガタテ薙への分岐だ。そのうちここも歩いてみたい。今回は山王帽子山に向かう。前後に人影はない。笹の原だ。笹に覆われて道は見えないが、しっかり道が付いている。人には誰にも会わない。山王峠に出る。立派な車道だ。これが奥鬼怒スーパー林道か。切込湖、刈込湖への入りロを探すが見つからない。とうとう光徳まで下ってしまう。歩きながらこれでは消費税は5%では治まらないとやけくそ気味に思う。とうとう光徳までくだってしまう。山王峠でもう少し上の方に歩けばよかったのだ。こうなると意地でもー浴して帰らなければ気が済まない。車道を歩いて、湯滝、湯ノ湖とまわる。温泉寺の「薬師の湯」でー浴する。3時15分発のバスに乗る。日光市内は入り渋滞になるが、それでも東武日光には5時、少し前に到着する。5時15分の臨時電車に乗り帰宅する。車中でラジオを聞くとイギリスのダイアナ皇太子妃の交通事故死を報じている。

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