山 紀 行

日光白根山(日本百名山)

「外輪山のー峰を前白根山、その西の本峰を奥白根山と呼んでいる。普通日光白根山と呼んでいるのは草津の白根山と区別するためである。日光群山の最高峰であり、男体山の奥の院とも言われる。奥日光に遊ぶ人は、すぐ前にある大きな男体山や太郎山に目を奪われて、奥白根山に注目する人は極めて少ない。中禅寺湖畔から戦法場ケ原のー端に立つと、原を距てて左手に連なる前山の上に、奥白根山の先端が僅かに見えるが、進むに従って姿を消し、湯元では全く見えない、だから日光白根山と言っても、誰のめにも親しい山ではない。この山をよく眺めるにはあ、男体山や皇海山、あるいは武尊山や滋岳、それら東西南北の山々から望んだ時、真に日光群山の盟主にふさわしい威厳と重厚をそなえた山容が得られる。...上イ寄留国境では最高の蜂である。浅間より高い。麓からその全容を捕らえるのに困難な山であるが、遠く離れるとよく見える所がある。それは上野から高崎へ行く汽車の窓からで、赤城が見えだした頃その右手に、整った円銘沸きの男体山、それと並んで更に高く、ボリュームのある白根山が眺められる。.,..
奥白根の頂上はー種異様である。それは蜂の巣のように凹凸がはげしく、どこを最高点とすべきか難い。小火ロの跡があちらこちらに散在しており、これをめぐって岩石の小丘が袴肇雑に金静綜している。....おもな火口を教えただけで五指にあまっ夫こ この山がいかに激しい噴火を繰返したかを、それは物語っている。」(深田久弥「日本百名山」)

日光白根山は百名山のーつだ。百名山をそれほど意識しているわけではない。ただ夏の丹沢は暑くてとても登れたものではない。折角の夏休みた。丹沢山域以外の比較的近いところで選ぶとなると日光、那須方面の百名山だ。奥日光にそびえる奥白根山は別名以北最高峰ともいうそうだ。これより北にはこの山より高い山は無いという意味である。湯元も何度か訪ねたことがある。そんなことで奥白根山に決まりだ。湯元には30年ばかり昔、T事務所に勤めていたときHさんはじめY、N、Sの諸氏とJ社から出版される税法の本の原稿書きで1週間近く合宿をしたことがある。その折りお昼休みには湯ノ湖で和船を櫓で漕いで遊んだものだ。当時、山に登ることなど想像外であった。

第1日目(8月15日)
下丸子を5時8分の始発電車に乗る。接続も順調で東武浅草駅には6時に着く。登山やハイキングの人が続々集まってくる。駅の構内ではお弁当屋が開店準備で忙しそうで800円の弁当を買う。7時の急行に乗る。6時20分発の決速に乗ったほうが8時30分には日光に着いたのだ。日光に行くとなると直ぐに特急だ、急行だと考える。昨日わざわざ池袋まで急行券を買いに行ってきたのだ。よく調べなければならない。下今市で乗り換えて東武日光駅に9時3分に到着だ。湯元温泉行きのバスも臨時が続々出る。あいにくのお天気でいろは坂、中禅寺湖は視界が利かない。湯元温泉は意外と閑散としている。ガスに覆われもう秋の気配すらする。ペットボトルのボルビックを買いたいがコンビニもない。バスの乗り場でお手洗いの水道の水が飲めるかを運転手さんに聞いてみるとお手洗いの水ではね、と言って水筒を取られて事務室の水道から水を入れていただく。有り難い。奥白根山登山口の標識を見てバス停から歩き出す。どうもこれは中曽根コース(この曽根というのは尾根を指す。)た。丁度外におられた旅館の人に聞くと前の道にはいると白根沢コースに出るとのことだ。林の中の小道を歩きスキー場の原っぱに出るが登山道が分からない。あたりー帯がスキー場のゲレンデになっていて道が分からないのだ。おまけにガスであたりが見えないとくる。少し登って行くとガスのなか登山者が<だってくる。白根沢コースの登山口を尋ねると、この先は危険箇所とかで登山口が分からず、ガスも深いので引き返して来たと言う。こつちはそうはいかない。とにかく上に向かって歩き出す。行き止まりで白根沢は崩落の危険があり立入禁止との注意書きがありロープが張られている。とにかく登山口を探さなければならない。ガスに覆われて視界が利かない上、人影もない。気ばつかりあせる。とにかくここから引き返すわけには行かない。反対側の斜面を登ってみる。足場も悪い。今度はスキー場のりフトの終端から少し登ってみる。見渡すと標識が見えるではないか。やれやれだ。時計を見ると12時5分だ。1時間近くかかった。こうなるともうこっちのものだ。ここで身支度だ。ういろうを食べる。スキー場を造れば登山道を教える案内板もついでに作っても良さそうだ。水といい、標識といい地元は何をやっているのだ。東武鉄道も尾瀬ばかりの人集めでもないだろうと思う。だからこんな夏のシ−ズンに閑古鳥が鳴いているのだ。なんだか八つ当たりだ。ひとりで腹ばかり立てていても仕方がない。出発だ。人影のない山道を登り出す。直ぐに旧道との分岐に出る。遭難碑を見る。右手は沢沿いの道のようで危険なようだ。今回はとにかく地図にある新道経由だ。登るにつれて時折一人二人ととくだってくる人達に会う。こうなると気持ちも楽になる。ただ皆さんー様に険しい道に驚いておられる。本当に急登に次ぐ急登だ。やっと平らな地点こ出る。尾根に上がったようだ。小休止の後、歩き出す。ここからは尾根道だ。シャクナゲの多いのに驚く。背丈は低いがとにかく目に付く。このくらいの高度が有れば花の咲く時期は6月の中旬から下旬だろう。やがて白根沢からの道と併せてひと登りで天狗平だ。樹林に囲まれて展望は利かないが気持ちの良いところだ。休憩していると上からー組のご夫婦が来る。とにかくこのコースはくだりに使う人が多いようだ。ここから少し登りた。辺りはなにやら丹沢の桧洞丸のような光景を見せる。しかし蕗の葉は小ぶりだ。樹林帯を抜けると前白根だ。ごのあたりには人は誰もいない。ガスもあがり下には五色沼、見上げれば白根山が中央に堂々たる姿を見せる。この前白根、五色山と連なる稜線が外輪山だ。今夜は泊まりだ。時間も早いし水場もある。稜線から樹林帯をひとしきり<だると避難小屋だ。時間も3時少し前だ。避難小屋に到着だ。早速、覗いてみる。若い女性が掃除をしている。これから下山するそうだ。水場は五色沼にくだり前白根に向かって登る沢にあると教えてくれる。学生なのだろうが避難小屋にひとりで泊まる勇気には感心するばかりだ。今のとこ私ひとりのようだが、誰か一人か二人は来てくれないものか。壁に張られたロープには毛布やら銀マットやらが沢山掛けられている。これを拝借すれば雨具だけでも十分寝られる。この様子を見ると常宿にしている人がいるようだ。どこの避難小屋にもこういう常宿の方がいて鍋やら醤油まで持ち込んでいる。小屋の壁には「平成9年8月末までに私有物を片付けて下さい。近々処分します。」旨の栃木県下今市林務事務所の張り紙がある。醤油や鍋はともかく毛布や銀マットは残して置いてほしいものだ。寝場所を確保すると早速水汲みだ。途中で中年男性に会う。五色沼に出て前白根に向かい沢をひと登りすると水音が聞こえ出す。冷たい水が流れている。山中でこういう水場に来ると何となく豊かな気分になる。流れ出している水もこの少し下から岩の間に潜り込みけ伏流水となり五色沼に出る。2.5リットル水を汲み小屋に戻る。若い女性は出発した後だ。先ほど会った方がおられる。今夜はこの方と同宿だ。湯元キャンプ場に定着しての奥白根登山とのことだ。2人で山の話をしながら食事だ。お湯を沸かして味噌汁を作る。東武日光駅で買った弁当の食べ残しの半分ではもの足らず、農協ご飯のお赤飯を温める。これで満腹だ。小屋の壁に沢山掛けられている毛布やら銀マットやらを布団代わりに寝る支度だ。6時を過ぎるとする事もなくシュラフに潜り込む。9時半ころあまりの暑さに目を覚ます。シュラフのチャックを開け靴下を脱いでまた眠り込む。

第2日目(8月16日)
朝物音で目を覚ます。時計を見ると3時40分だ。もう起き出して食事の支度の様子だ。4時30分出発される。横になったまま見送る。5時に起きる。お湯を沸かし味噌汁を作りお餅を入れる。起き抜けでは食費欲がない。それでも4個分も食べてしまう。ザックを小屋にデボして壁に掛けてあったアタックザックを拝借する。水筒、雨具、フイルム、貴重品を持って6時15分出発だ。誰もいない山道を朝日を浴びながら登って行く。下は雲海だ。男体山がわずかに頭をのぞかせている。ザックの重さがないので足取りも軽くいい気持ちで登って行く。これで下が見えれば言うことがないのだが、欲張りすぎかもしれない。広い火口原に出る。ここを横切り斜面を少し登ると祠がある。感謝の手を合わせる。やがて日光白根山山頂だ。五色沼や前白根の外輪は見えるがあとは四周雲の下で見えないが、太陽はまぶしいくらいに昇り出す。中年男女5人組が賑やかに登ってくる。時計を見ると7時だ。最初に登ってきた女性は私がいたので驚いた様子だ。菅沼から登られたそうだ。昨夜、新潟から来て駐車場にテントを張って4時に出発したという。 あたりを観察すると山頂は複雑な凹凸を見せる。菅沼側は裂けている。過去の激しい火山活動の様相を教えられる。展望が利かないのが残念だ。下山開始だ。新潟組は私が登ってきた道を下られる。私は弥陀ケ池、五色沼と回って避難小屋に戻る予定た。朝日を浴びていい気分で<だる。雲海の下で展望が利かないのが残念だが弥陀ケ池あたりから登る人に会い出す。このあたりはシラネアオイの群生地だが鹿の食害で見るかげもない。のんびり五色招をまわって避難小屋に戻る。ザックを整理して身支度をしていると山頂で会った新潟組が来られる。この後、一緒に歩き出す。五色沼でー緒に雑談をしながら休憩だ。ゆで卵を頂く。皆さんはこれから菅沼ロに戻り車で至仏山に登山予定とのことだ。百名山巡りか。機動力があればとうらやましくなる。五色沼から離れて樹林帯に入る。水場で水を汲む。ひと登りで稜線に出る。だんだん会う人が多くなる。それでも人影の少ない山歩きだ。前白根からは上を見ると奥白根山、下を見ると五色沼と展望が拡がり楽しい山歩きた。典型的な尾根歩きで楽しい。穂高では緊張の連続だった。こんなのんびりとした尾根歩きの方が緊張がなく楽しい。やがて五色山山頂だ。ここから中曽根尾根をおりるだけた。湯元から中曽根尾根を登りに取ればここで奥白根山がその雄大な山容を見せる訳だ。あたりには誰もいない。ここは奥白根山をー望できる絶好の場所で、時刻も10時30分で昼食に丁度良い。汲んだばかりの水もある。お湯を沸かし味噌汁をつくり、農協ご飯を温める。これはアルファ米より美味しい。おかずは納豆だ。一人でうまいうまいを連発する。くだるとなると早いものだ。国境平から 直進すると金精峠だ。今回は食糧も少ないし、とにかく中曽根(尾根)コースをくだるだけた。笹がかぶっているうえ、地面も深くえぐれている。雨水でえぐれてしまうのだろう。ガスが吹き払われて湯の湖が姿を見せる。とにかく笹が深い。やがて湯元温泉だ。なにやら今日も閑散としている。空室有りの札が目にはいる。とにかく入浴た。温泉寺の宿坊で薬師の湯(500円)に入る。いい気分た。バス停に行くと2時300分の東武日光行きのバスが2台駐車している。早々に乗り込む。夏のー番いい季節と言いながら閑散としている。車窓から見ると赤沼茶屋あたりは人が多いがとにかく車で来て回る客ばかりではとても商売にはならないのであろう。竜頭の滝を車窓から眺める。中禅寺湖も相変わらずガスに覆われて、わずかに湖畔の風景が目にはいるだけだ。日光市内にはいるとバスは渋滞するが4時20分には駅に到着する。駅前のおt産屋のニ階でざるそばを食べる。5時発の急行にも間に合うが席も空いていないので5時15分の臨時快速に乗り換える。東武日光から浅草まで*越金も1330円だ。時間も30分前後の違いだ。こんなことなら無理に特急や急行に乗ることもない。これから何回か乗れそうだ。

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