山 紀 行

第2回北アルプス縦走記(白馬岳・杓子岳・白馬鑓ケ岳・唐松岳縦走)

1日目

11時50分発の急行アルプスを利用しての第2回目の北アルプス行きだ。新宿駅のホームは登山者で一杯だ。これではとても座れそうもない。列の最後尾にザックを置いて時間をつぶす。通路に新聞紙でも敷いて座れれば良いと覚悟を決めて最後に乗り込む。案の定、とても座れるどころの話ではない。予定どおり通路に新聞を敷いて座り込む。この方が楽なようだ。2時近くになると寝ている人が多くなる。こちらも予定どうり床に新聞紙を敷いて寝る。こんなにしても山に行きたいのだから笑い話かもしれない。 

2日目

うとうとするがすぐ目が覚める。なかなか熟睡とはいかない。4時30分松本だ。意外と下りる人は少ない。ここらあたりから眠くなる。信濃大町では結構人がおりた。ここから快速となるのだ。窓の外を見ると朝霧でもやっている。5時30分白馬駅だ。登山者がどんどん下りてくる。駅舎の前に臨時に机が出されてお巡りさんが登山届を受け付けている。用意をしてきたワープロで書いた登山届を渡す。早朝からご苦労様だ。最初のバスが出発する。今日の歩きは5時間だ。今夜は小屋に泊まるのでのんびりと出発だ。バス停前のお店で腹ごしらえだ。ご飯ものは牛丼しかない。出てきた牛丼は肉がごっそり盛られているが堅くて、なんだか半分も食べられない。うどんか蕎麦にでもすれば良かった。ついでにお昼の弁当を買う。この隣には貸しアイゼンがある。4本爪の簡易型だ。保証金を払って借りるシステムのようだ。ここの人と立ち話をする。大体の登山者は天気が良ければ白馬山荘に、雨が降れば村営頂上宿舎に泊まるそうだ。  6時10分臨時のバスに乗り込む。冬にでもなればスキー客でにぎわうのだろう。旅館街の手前から右折して林道に入る。程なく猿倉だ。バス停から一段上に朝日を浴びて村営猿倉山荘の建物がある。あたりは出発の準備の人で大変な賑わいだ。村営猿倉荘に泊まり出発することもできる。前夜ここに泊まり翌朝歩き出せば余裕のある山歩きが楽しめるのだ。夜行ではとても眠れたものではない。昨夜は2、3時間ウトウトした程度だ。それでも床に横になっただけ楽といえる。気負っているせいかさほどの眠気も感じない。身支度も早々に歩き出す。どんどん列を作り登るのだから壮観だ。爆音が聞こえる。見上げるとヘリコプターだ。機体の下に荷物をぶら下げている。上の小屋に荷物を運んでいるのだ。白馬山荘の収容人員が1500人、村営頂上宿舎が1000人というから大変だ。さすが北アルプスでも屈指の人気の山だけのことはある。1時間も林道を歩くと白馬尻だ。ここからいよいよ山道だ。ここで小休止をする。小屋の前には冷たい飲み物がおかれ若いアルバイトの女性が呼び込みだ。ジュースを買いラスクを食べる。小屋の少し先から雪渓が始まる。大雪渓だ。成る程噂に違わぬ。7月でこれだけの厚さがあるのだから冬の降雪量は大変なものだろう。ここで持ってきたアイゼンを着ける。歩き出す。六本爪アイゼンの効きはよい。傾斜もさほどではない。下から冷気が昇ってきて気持ちの良い登りだ。一列になってどんどん登るのだから振り返れば壮観だ。葱平だ。ここで雪渓から離れる。登山道の至る所で皆さん腰をおろして休む。下りてくる人で時々文句を言う人もいる。これだけの人が登るのだ。多少はやむを得ない。邪魔にならないように登山道から少し離れた岩陰で、朝、買った弁当を半分食べる。大きな栗が入っていてうまい。残りは次の休憩時だ。ここからの山道は水量が多い。右も左も雪渓があり雪解けの水が流れている。登り切れば右岸から左岸に雪渓を横断する。道が開かれているが、注意をしてトラバースだ。ここからは明るい夏の山道だ。陽に照らされて暑いことこの上もない。やがて村営宿舎がみえだす。登山道から少しはずれた左手の斜面に塩ビニの管が斜面に差し込まれていて冷たい水が出ている。水を飲んで水筒を満たす。雪渓の水は汚染がありそうだ。ここは心配あるまい。登り切れば村営頂上宿舎の前に出る。下で聞いたとおり多くの人は白馬山荘に向かう。その方が山頂に近いし、翌日、日の出を見るには都合がよいのだ。しかし、村営頂上宿舎に泊まる方が部屋も空いていて良さそうだ。雨が降ればこちらに泊まる人が多いのが人の常だそうだ。部屋には乗鞍、穂高、白馬、針ノ木等々の名前が付けられれている。今日は金曜日で比較的空いている。明日からは大変な人出であろう。割り当てられた部屋(乗鞍)にザックを置いて早々に白馬岳山頂に向かう。白馬山荘を通り抜ける。本当に大きな山小屋だ。この山を世に紹介するのに力のあった松沢貞逸の記念碑を見てから山頂に向かう。西側は緩やかな斜面だが東側は切り立った絶壁だ。白馬岳山頂だ。ザックを小屋においた身軽な人達で一杯だ。それだけに皆さん賑やかに四周の景色を楽しんでいる。本当は人のいない山頂を写真に撮りたいが、どうも邪魔をしてうまくフレーミングが行かない。北には雪倉岳へと稜線が連なる。北東には雲海に頭を出している小蓮華山が見えるが、東側は大半が雲海だ。南には杓子岳、白馬鑓ケ岳が間近に眺められる。南から西にかけて立山連峰が連なる。西には前旭岳、旭岳、清水岳が見える。旭岳の斜面は雪に覆われている。8月のこの時期にこれだけ雪があるのだから真冬の降雪量は相当なものだろう。それにしても小蓮華山から連なる東側の斜面は切り立った壁だ。この後、時間もあるので村営頂上宿舎の裏手の稜線を歩き丸山に向かう。ここでひとしきり景色を眺める。4,5人の人達も静かに眺めている。山に登って過ごすこんな時間が一番楽しい。小屋に戻る。同宿の人達と四方山話だ。関東の人はあまり話をしないが、関西の人は率直だ。やがて夕食の声がかかる。部屋毎に呼ばれて同じテーブルで食事だ。同室の京都3人組、大阪3人組と同じテーブルだ。最初の頃、山小屋では食欲がなくあまり食べられなかったが最近では皆さんと話をするのでご飯もおいしく食べられる。今日は3杯も食べる。 

3日目

4時物音で目を覚ます。向かい側の京都組は出発されたようだ。大阪組が部屋で弁当を食べている。5時食事だ。早々に身支度をして5時30分小屋を出る。縦走路にザックを置いて杓子岳山頂を往復する。小さな岩がごろごろしている。杓子岳という名前はコンサイス日本山名辞典によれば「ジャレ・ザレなどと同じく岩石がガラガラしたガレ場をシャクシと呼ぶことから、大きなガレ場のある山をいう。」とあるが本当に実感する。 山頂で白馬岳を写真に撮る。白馬岳の中腹には朝日を浴びた白馬山荘が見える。数枚撮ったところでカメラの調子がおかしい。見ると電池が切れたようだ。今回は予備を持ってきているのであわてないが、富士山に登ったときは電池がなくて泣きたい気持ちでだった。縦走路に戻りザックを回収し出発だ。朝は気温も低く歩きやすい。立山連峰を見ながらご機嫌だ。疲れは感じない。ひと登りで白馬鑓ケ岳山頂だ。山頂には15,6人の人達がいる。写真を数枚撮った後出発だ。もっとのんびりしていたいが今日の行程はながい。出発だ。南側は緩やかなザレた斜面だ。振り返ってみれば青空をバックに穏やかなザレた山容があり、その斜面を斜めに登山道が見える。やがて鑓温泉分岐だ。大半の人がここから下られる。日本で一番高所にある鑓温泉に入ってみたいし、不帰ノ険も歩いてみたいしハムレットの心境だ。ここからは人も極端に少なくなる。天狗平だ。斜面は雪に覆われている。天狗山荘に入り用足しだ。小屋の前には水場もあり、ジュースを買いラスクを食べる。次々と到着される。ガイドブックには遅くともここは10時に通過したいとあるが時刻は9時だ。大丈夫だろう。前後に人はいない。天狗ノ頭だ。ここまでは典型的な尾根歩きだ。右手に立山連峰の稜線を見ながらのんびり歩く。しかし、ここから天狗の大下りだ。長い下りだ。鎖の欲しい岩場もある。岩場といっても平坦な凹凸の少ない斜面だ。雨でも降れば滑り易いことだろう。とにかく長い下りだ。鞍部に下りる。ここからがいよいよ天下の不帰ノ険だ。T峰に登ると5人の中年女性が食事をしているが恐ろしくて食事が充分喉を通らないと言っている。鞍部におりる。ここで二人の先生に引率された高校生のパーティ10人が食事をしている。目の前には絶壁がある。ここで腹ごしらえをして気合いを入れて登らなければならない。覚悟が決まると食事だ。ガスでお湯を沸かし味噌汁を入れてお昼の弁当のご飯を煮込む。おじやだ。やがて先程の中年女性のグループがこの斜面に取り付くのを下から見上げながら食べる。連中がどう抜けるのか見ているが見えなくなる。やがて高校生のグループが出発される。大きなザックを背負い大変だ。静かになった。さあ気合いを入れて登りだ。2峰北だ。思ったほどではない。油断は禁物だ。U峰南側のへっつたところで年輩の二人が休憩している。挨拶をするとこの景色を見ていると動きたくないと言っている。振り返れば天狗の大下りが目にはいる。夏空をバックに白馬三山の山容が見事な姿を見せる。こういうところで休んで眺めなければもったいない。ご一緒させてもらう。話をすると名古屋からこられたそうだ。写真を撮って飽きずに眺める。V峰の岩場をはしごで登る。登り切って前を見ると絶壁だ。おまわず足がすくんで四つん這いになり左の道に取り付く。これで最大の難所を越えたようだ。V峰から下りると高校生のパーティが休憩している。ここからは1時間30分くらいの道だ。とにかく暑い。稜線をひとしきり歩くと前方のピークに人影が小さく見える。バックは夏空に白い雲だ。写真に撮るがこの感じが出るかどうか。 唐松岳山頂だ。山荘も見えるしもうこうなると安心だ。のんびりと景色を眺める。もうこうなると余裕だ。山荘に入り受付をする。大変な人だ。ロープウエイを乗り継いだりして八方尾根からの登ってきた人達だ。指定された寝場所は3階だ。1枚の布団に二人だ。隣は横浜から来られた二人組(江藤さん)だ。Eさん達と四方山話だ。この後、喫茶室に行きコーヒーを飲む。外は猛烈にガスが湧いてくる。たちまち立山連峰が見えなくなる。山の天気の変わり易さには驚くばかりだ。風も出てくる。戻ると寝るところが少し広くなっている。今夜の宿泊者が決まり2階に余裕が出来たとのことでEさん達は2階に移られたそうだ。 

4日目

5時起きる。雨ではないがガスで視界は利かない。5時45分小屋を出る。ガスで視界が利かない。その上、風が強い。昨日とは様変わりだ。気合いを入れて慎重に岩場を下る。牛首の頭でEさん達に追いつく。時々風が吹き払われて稜線が見える。先発の人達の姿が見える。それにしても昨日とはうって変わった天候だ。ガスで視界が利かない上、風も強い。おまけに人影も少ない。心細ささえ感じる。9時五竜山荘に到着する。沢山の人でごったかえしだ。昨日遠見尾根から登った人達であろう。晴れていれば五竜岳が目の前に見えるはずだが一切がガスの中だ。依然風も強い。小屋の前でEさん達と一緒に食事をする。一緒にキレット小屋に行きましょうと誘われる。もうこういう機会はありませんよと言われる。これまでの10年とこれからの10年とは違いますよとまで言う。でも夜行列車で1泊、満員の山小屋で2泊となると睡眠も十分ではない。余力を残しておりたほうがよさそうだ。Eさん達の出発を見送った後、元の道を戻り遠見尾根を下る。高度が下がるに連れてつれて天気が良くなる。しかし、振り返れば五竜岳は雲の中で見えない。それにしても下りとなると早いものだ。 どんどん抜いて下る。池だ。雪で覆われている。先発の人達が大勢や休んでいる。この端に座り大休止だ。お隣の4,5人のグループは上田から来られたそうだ。この後、この遠見尾根を登られてここから引き返されるとのことだ。歩いてきたコースを聞かれて答えると感心される。このあたりから夏空が戻る。ここからは本当に暑い。アルプス平からケーブルを利用して下る。この辺り一帯はスキー場だ。終点には神城プラザという立派な施設がある。これは冬のスキーシーズンの施設のようだ。2時間くらい余裕があるので風呂にはいる。700円だ。浴槽で体を伸ばす。本当にいい気持ちだ。あわただしく身支度をする。とにかくあわただしい。もう少しのんびり出来ればと思うがやむを得ない。ここの送迎用のバスで神城駅に出ると、丁度松本行きの快速に間に合う。松本でも3時15分の特急に乗れる。車中は疲れでうとうとするが、夜行列車で床に新聞を敷いて仮眠したことと比べれば雲泥の差だ。6時10分新宿に帰り着く。

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