山 紀 行
鳳凰三山縦走

今年の私の夏山シーズンの幕開けは鳳凰三山(薬師岳、観音岳、地蔵岳)縦走だ。昨年、白根御池小屋から雪を頂いたような薬師岳を見た。その稜線を歩いてみようという訳だ。  新宿駅を7時に出る特急あずさ1号を利用して甲府駅に8時33分到着する。バス停に向かうと既に広河原行きのバスが待っている。9時の筈と思いながらバス会社の係員に行き先を告げ確認すると、夜叉神峠登山口ならこの便に乗ってくれという。時間があれば果物でも買いたいが止む無しと、バスに乗り込む。座席に空きはない。通路に新聞紙を敷いて座り込む。隣に立っている若い人に新聞紙をあげて坐るように勧める。この後、この若い人と山の話をしながら時間をつぶすので退屈をしない。5月の連休は屋久島宮ノ浦岳に登ったそうだ。芦安村のバス停でバスは小休止だ。通路に座り込んでいただけにこんな小休止があれば助かる。バス停の横のお店を覗く。オレンジやバナナがあり、早速、買い求める。皆さん思い思いに車外で一服だ。 やがてバスが発車だ。ここからは狭い曲がりくねった林道だ。やがて夜叉神峠登山口だ。小学生の一団がいる。登山口で水筒に水を補給する。東屋があり登山者が一人寝ている。いよいよ歩き出す。小学生の一団が前後して前を歩くので、歩き難いことこの上もない。引率する先生も軽装で峠まで往復するだけのようだ。やがて夜叉神峠に到着する。小屋の前は開けた草地で沢山の人が休憩している。小休止の後、歩き出す。最初はすこしくだり、次は緩やかな登りだ。同じバスで降りた人達が相前後して歩く。キスリングを背負った年配の人が確実な足取り で登って行く。長い登りだとおもっていると杖立峠だ。ここから下り、少し登り返すと明るく開けたところに出る。山火事の跡だ。遮るものもないので暑くて仕方が無い。背のあまり高くない潅木帯の中に潜り込み一休みだ。やがて緩やかな登り道だ。樹林帯に入り涼しくて歩き易くなると苺平だ。4、5人休憩している。ここからは樹林帯の下りだ。こうなると足取りは軽い。木の枝越しに明るく開けた南御室小屋が見える。時間も3時20分と意外に早く到着した。小屋で受付けをする。管理人はガイドブック「北岳を歩く」で見た関野 孝氏だ。素泊まりで2500円だ。私のようなシュラフ持参で自炊をする人間はいないようだ。入り口近くの一区画の一番良い場所を割り当てられる。氏の話しでは手間の掛からない人は大事にしなければと、嬉しいことを言ってくれる。手続きを済ませた後、小屋の辺りをぶらぶらする。テント地に行く。朝バスで一緒だった彼がテント設営地の端に陣取っている。2時40分に到着したが、薬師小屋は満員で登れなかったそうだ。この小屋で薬師小屋の宿泊者を調整しているようだ。お互いにカメラで写真を取り合う。シラビソの枝にサルオガセが付着している。丹沢では乾燥して見掛けなくなったがここでは健在だ。小屋に戻り、入り口近くに居られた管理人の関野 孝さんに、サルオガセのことを尋ねると森林と開けたところの境界のシラビソに付着し、シラビソが枯れ出すと胞子をを飛ばして別の木に付着するとのことだ。この辺りの森林はシラビソが主で奥に少しトウヒがあるそうだ。 第2日目  物音で目が覚める。時計を見ると3時30分だ。皆さんはどうしてこんなに早いのだろうとついつい文句が出る。また一寝入りだ。5時に起きて小屋の前のベンチで食事だ。アルファ米がどうもうまくいかないようだ。なんだか食欲が無い。5時55分に出発だ。涼しいので気持ちよく歩ける。次第に高度をあげる。樹林の切れ間から親子3人連れが富士を眺めている。ここから少し歩くとガマノ岩だ。ここからは樹間のあいだから白峰三山の一部が顔を覗かせる。稜線が近いことを感じさせる。  樹林帯からひと登りをすると砂払岳だ。視界が一挙に広がる。稜線に出たのだ。雲海の上に富士山が見える。白峰三山(農鳥岳、間ノ岳、北岳)の稜線が一望出来る。千丈岳が見える。この稜線は砂払岳、薬師岳、観音岳、地蔵岳と連なり、その先は早川尾根で仙水峠になる。奥秩父、八ケ岳、甲斐駒ケ岳、白峰三山の絶好の展望地だ。ガイドブックに日本庭園の趣とあるが本当だ。白い砂にハイマツ、起伏の緩やかな稜線とくればもっとのんびりしたい。秋も良いだろうとおもう。むしろ紅葉が始まる時期こそが一番の見所か。 観音岳から少しくだった岩陰で小休止だ。風が冷たく本当にいい気持ちだ。なんだかさっさと歩くのが惜しい気分だ。汲んだばかりの冷たい水で抹茶を入れて飲む。ここからくだり登り返すと赤抜ケ沢ノ頭だ。地蔵岳のオベリスクが大きく見える。地蔵岳だ。向かい側にはオベリスクが直立している。 賽ノ河原から見る甲斐駒ケ岳は見事だ。ここでいっぱしの写真家気取りで腹這いになりお地蔵様を近景に写真に撮る。ザックをここに置いてオベリスクに登る。もとより頂上に登ることは出来ないが、登れるところまで登ろうという訳だ。雲海に浮かぶ八ケ岳連峰がみえる。 樹林帯をくだると鳳凰小屋だ。ここで一休みだ。高揚した気持ちも少し落ち着く。まだまだ気合を入れておりなければならない。皆さん思い思い休憩している。ここからの下山コースは燕頭山コースとドンドコ沢コースの二つに分かれる。ドンドコ沢コースをくだり青木鉱泉で一浴びしたい。ドンドコ沢をくだる。沢沿いの道は注意をくだらなければならない。要所要所にはペンキのマークがあり安心だ。人影は見えない。無心に歩く。道も所々崩壊しているが注意をしてくだればさほどではない。沢からの水音がひときわ大きく聞こえ出す。五色ノ滝だ。登山道から斜面を巻いて少しおりる。写真を撮るが見事だ。高さは100mもあろうか、垂直に切り立った岩壁を豪快に水が落ちている。  白糸ノ滝だ。高さはないが滝は2段になり、2段目に大きなゴツゴツした岩が印象的だ。これで流れが四方八方に散らされる様が白糸という名前の由来か。  鳳凰ノ滝の標識を見るが、20分の回り道をしなければならないようだ。パスする。青木鉱泉で一浴びしてざる蕎麦を食べることばかり考えて思わず足が早くなる。東洋大学ワンダーフォーゲル部の部員の追悼碑が道標代りに建てられている。若い学生が遭難しでたようだ。南精進ノ滝はここから樹林の中を2、3分歩くようだ。ザックを岩の上において滝を見に行く。この滝もなかなか見事だ。  この後、樹林の中をどんどん歩く。先行している何人もの人達をどんどん追い抜く。青木鉱泉に2時35分に着く。入浴を申し込むと送迎ワゴン車が3時に出るから急いで入浴して下さいという。思わず15分で、と聞き返す。いま若い方に入浴していただうていますと、つれない返事だ。否応もない。韮崎駅まで往復に2時間かかり4時以降は予約客が優先とのことだ。あわてて入浴する。忙しいことこの上もない。入浴して戻ると車が待っている。韮崎駅に4時に到着する。駅で時刻を見ると4時7分発の高尾行きがある。切符を買いホームに出る。すぐに電車が来る。各駅停車で十分だ。急ぐ旅ではない。居眠り半分で高尾、新宿と帰り着く。

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