追憶の百名山 白馬岳(1996/8/2)

日本が直面する問題1(2020/10/24)


 2014年にフランスの経済学者トマ・ピケテイ教授が「21世紀の資本」を電子出版し大変な反響を呼びました。現在では邦訳も出ています。ピケテイ教授には一橋大学経済研究所の教授(名前は失念)が日本の資料を提供したそうです。

「21世紀の資本」の概要
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 米欧での300年にわたる租税資料を分析し、1914〜70年代を例外として、資本の集中と経済的不平等が常に進んでいることを示した。マルクスが19世紀に予言したような資本家と労働者の激しい階級対立が起きず、資本主義のもとで不平等が縮小するかに見えたのは、二つの.世界大戦と世界恐慌がもたらした偶然に過ぎないと指摘。貧富の差が激しかった19〜20世紀初頭に戻る可能性にすら言及している。

「ここ数十年の間で、二つの非常に大きな変化が起きています。

 一つは米国でとくに目立つことですが、上級の企業幹部の収入が急上昇しています。米国では今、全所得の約50%が上位10%の人たちに渡っています。

 もう一つの方がさらに重要ですが、生産設備や金融資産、不動産といった資産の蓄積が進んでいます。こうした資産が、その国の1年の経済活動を示す国内総生産(GDP)の何倍あるかを見て下さい。1970年時点では欧州では2〜3倍でした。それが今は5〜6倍になっており、国によっては6〜7倍になっています。」(抜粋)

 これらの問題を市場は解決できないとして、ピケテイ教授は資産に対する1%から10%の課税、所得に対する累進課税を提案します
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この書は米欧始め日本等の資本主義国で国を二分する大問題を提起しています。また経済学のパラダイムにもかかわる問題の提起でもあります。

ノーベル賞経済学者のクル−グマン教授は書評で「ピケテイは我々の経済的論議を一変させた」と絶賛しています。あるパラダイムの中で精緻な数学的な理論を展開している経済学者にとっては不意打ちを食ったような感じかもしれません。

 ただこの政策提案に関して、日経新聞電子版で読んだ英エコノミスト誌の書評は「左派を狂喜させ、右派を激怒させる」となかなか手厳しいものがあります。

 こういことでこの政策の実行は一国だけでも難しいのに国際的な協調などは不可能ということです。


 ピケテイ教授の視点は経済の需要面から見た側面ですが、供給面からも重大な指摘がピケテイ教授の盟友とでも云うべき同じフランス人経済学者のニューヨーク大学トマ・フィリポン教授からもされています。教授は「大反転−−自由市場をあきらめた米国」の著者で独占・寡占問題の第一人者と見られています。

 2020/10 の朝日新聞のデジタル版で自由市場をあきらめた米国 ピケテイの盟友からの警告」と題するトマ・フィリポン教授へのインタビュ-を読みました。

 米国では今世紀に入り、食肉産業だけでなく通信、航空、金融、医療などさまざまな分野で巨大企業の独占傾向が強まっているというのです。

トマ・フィリポン教授に聞く
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 1980〜90年代まで、私の出身地である欧州では独占の傾向が強い一方、米国では競争を保つ政策がとられていました。それが、90年代の終わりから2000年代初頭にかけて「大反転」したのです。

 これにはさまざまな要因があります。
 この数十年の間に、反トラスト(独占)の訴訟に携わる裁判官たちの判断基準が次第に変わり、独占を取り締まろうとする機運が弱まってしまった。
 企業側もワシントンの議員らに対するロビー活動を強め、新規参入を促す立法措置がとられるのを妨げてきました。航空会社などは、9・11テロのような事態を逆に好機として利用し、それを言い訳に次々に合併・買収を進めてきたのです。

 注意しなければならないのは、GAFAMは一般に思われているほど特別な企業でも何でもない、ということです。GAFAMは「特別な企業だ」という一般のイメージを利用して、「米経済を壊してしまうことになるから、GAFAMに規制をかけるのは難しい」という風潮をつくりだしてきました。まったく誤った主張です。

 GAFAMがネット経済を築き上げてきた功績は否定しませんが、過去に自動車や飛行機が生み出されてきたのと変わらない。(コンピュ-タ-関わる新しい分野であるため)自動車や飛行機に比べて企業の姿がわかりにくくなっているだけです。

 いつの時代も、華々しい業績を上げた企業はある。60〜80年代のAT&TやIBM、90年代のウォルマートのような企業と比べても、GAFAMが格別に革新的といえるわけではありません。雇用も大して生み出しておらず、過去のスター企業に比べ、実体経済への貢献度は低いのです。

 自由な市場を守るには、二つのことが必要です。

 まず、市場を開かれたものにすること。
つまり、小さな企業でも新規参入ができるようにし、競争を活発化させることです。

 そして、大企業が大きくなりすぎないようにすること。80年代ごろまでの米国は、この自由市場の原則を捨ててはいませんでした。

 この二つが果たされれば、消費者が大きな利益を得る、ダイナミックで活力のある市場を生み出すことができるのです。
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 トマ・フィリポン教授は独占・寡占がどんな風に経済に悪影響を及ぼすか説明されます。

 「GAFAMが格別に革新的といえるわけではありません。雇用も大して生み出しておらず、過去のスター企業に比べ、実体経済への貢献度は低いのです。」という指摘は重大です。

 また中小企業への労働者の教育支援策等を挙げておられます。これらのことは至極もっともことですが、もっとも根本的な問題は既存の中小企業がどんどん衰退するばかりで新しい企業が立ち上がってこないことです。従前型の企業ではない、新しい企業の誕生が待望されます。これには教育の在り方、社会の在り方まで問われ出すことになります。

 私は永く週刊東洋経済誌を愛読してきましたが、過去に読んだ幾つもの記事を通して一番残念に思ったことは日本の企業の行動です。

 かなりの企業がある段階まで成長すると持てる資金を事業の深化等へ使わずに関係外の分野(例えば野球球団経営等)にふりむけたり、足下の事業の深化をなおざりにして海外企業への投資買収へ走ることです。例外はあるのでしょうが、これらはたいした投資効果を生み出すことなく終わっているのが現実のようです。

 いくら金融を緩和し、財政支出を増やしても経済が停滞から抜け出られないのは現在の経済が需要面供給面でこういう大きな構造的な問題を抱えているからです。新政権がデジタル庁創設、規制緩和等の供給面での構造改革路線を打ち出しています。長期の視点から見れば欠かせない政策だと考えます。ただ財政の赤字はどんどん積み上がります。一方、何時まで続くのか予測できませんが金融資産はじわりじわり積み上がっています。とにかく増税は避けれませんが、どういう税目が対象となるのでしょうか。法人税、所得税、消費税、資産税(これは範囲が広く一つや二つの特定の税目だけでは難しい)等の広範囲な組み合わせとならざるを得ないのです。この増税ということになれば国民に単なる税負担を求めるにとどまらず国の在り方(例えば北欧型の福祉国家)も問われることになるのではないかと考えます。財政赤字がここまで積みあがり、増税も出来ないとなると考えるだけでも恐ろしい事態、超インフレ(どういうパスになるかは分りませんが)という政治や経済、社会生活に大きな混乱が予想されます。経済学者の中にはこうした困難な事態を予測して国民に自助努力を呼びかける方も出ていますが、政治が正面から取り組まなければならないのではないかと考えます。

 昭和前期の日本は農地改革を始めとす様々な課題を抱えていました。知ってか知らずか、これらの問題に立ち向かうことなく満州へ、朝鮮へ、台湾へと植民地の経営に難局打開の途を求めました。こうした大きな時代の潮流に異を唱えた人達がいました。昭和の始めから三浦銕太郎、石橋湛山らが「東洋経済新報」で一貫して植民地経営が政治的にも経済的にも割に合わないことを説き、「満州朝鮮台湾放棄論」(小日本主義)を主張しました。太平洋戦争後はまさにこの方策で発展を遂げたのです。

 経済学を多少なりとも学んだ身としてこうしたことを書いて生きた証を残したいものと考えました。生きた証と云えば1972年に先輩と小さな事務所を立ち上げて以来、沢山の中小企業の経営を見てきました。私自身も先輩から実務の仕事は僕がやるから事務所の経営や管理に専念して欲しいと云われて、ここまでやってきました。そんなことで政治や経済などという分不相応なことより、中小企業の抱える身近な問題(私自身が経験した問題も含めて)について書き残したいのです。しばらくご猶予を頂くとして、とにかく老化防止で書き上げました。何卒ご一読を頂きご意見をお寄せ下さい。
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