半藤一利・加藤陽子「昭和史裁判」(電子書籍版)を読む(’14/8/16)
 中村隆英「昭和史」上下を読み終えたので次は内を読むかだ。日本近現代史の本はかなり読んでいるし、処分もせずにかなりの冊数を持っている。もう一度読んでも悪くないのだが、いかんせん活字本は億劫になった。本当は中村隆英著の「昭和経済史」が読みたいのだがまだ電子書籍化がされていない。そんなことで最近は電子書籍ばかりだ。おまけにkindleで読み終わると、この本を読んだ人は次のような本も読んでいますと半藤一利加藤陽子「昭和史裁判」の案内が入った。 加藤陽子著「それでも日本人は戦争をえらんだ」を何年か前に出版されて直ぐ読んで、とても面白かったので直ぐクリックした。

 この書は広田弘毅、近衛文麿、松岡洋右、木戸幸一、昭和天皇をそれぞれ一章としていろいろな資料に当たり様々な角度から対談する形式だ。おまけにそれぞれの章に登場する人物も多彩でとにかく興味深い。断片的な拾い抜きをしてみた。

★ 松岡洋右がパリ講和会議に報道係主任として参加していること、帰国後全権代表の牧野伸顕に手紙で、所謂「二十一箇条要求は論弁を費やす程不利なり」と書き送っている事を知った。

★ 鈴木貞一が木戸のところを何度も訪れていること、、木戸の辛辣な鈴木評とか、宇垣一成の木戸評等々なかなか面白い歴史の裏話が載っている。

★ 東条内閣の時、本当に米国と戦争が出来るのか国力の再検討をしたが、こういう段階に至っては無理だ。こういうところにも日本的組織の問題が露呈するようで、企画院、陸軍省、海軍省の中間層の軍人達が戦争ということで走り始めてはどうにもならない。

それにしても昭和戦前期の一番の問題は統帥権を巡る問題ではないかと思う。

 第一次近衛内閣の時、支那事変が勃発するのだが、閣議の席で近衛首相が杉山陸相に軍の行動範囲を尋ねるも答えを渋り、米内海相が代わって答えると、杉山陸相が、こんなところで統帥事項を話して貰っては困ると色をなして怒ったという話が紹介されている。

 これが昭和戦前期が抱えた問題の全てを教えてくれると考える。こういう国家の重大時に政治と軍事がかみ合わないのだ。国家として統一した意思決定ができないのだ。昭和の諸問題の核心に統帥権があるのだ。おまけにその軍の内部でも統制が効かないのだから何おか況んやだ。

 大日本帝国憲法第11条(統帥大権)「天皇は陸海軍を統帥す」、第12条(編成大権)「天皇は陸海軍の編成及び常備兵額を定める」と規定されている。要するに軍に関することは天皇の大権で政府は手が出せないということだ。

 陸軍大学校で統帥綱領が統帥の本義として徹底的に教え込まれたという。日露戦争時には政治家の方が上であり、また軍人も充分なる政治的な判断が出来ていた。

 杉山陸相は高宮太平の人物評によれば能吏ではあってもとても国家の大事を託するにたる人物ではなかったという。また天皇はと言えば所謂「無答責」を原則としていて、元老の西園寺にしても、内府の木戸にしても天皇には問題となるような発言はさせないようにしているうえ、天皇自身も張作霖爆殺事件の折の田中首相への発言が大きな波紋を投じたりし、こうした発言に慎重になっていた。昭和戦前期の最大の政治的な欠陥がこの統帥権であり、終戦時の御前会議は天皇陛下と大元帥陛下の使い分けというなんとも奇妙な論理で乗り切ったのだ。とにかく昭和史戦前編からは学ぶことがいっぱいあると思う。
補足(’14/8/25)
 英国を代表する日本政治の研究者、アーサー・ストックウィン・オックスフォード大名誉教授へのインタビュー記事が2014/8/21朝日新聞「オピニオン」に載っていましたのでご一読下さい。

 「今の日本人に必要なのは、もういちど1920年代、30年代、そして戦争の時代へと、日本の政治がどういう軌跡をたどったか学び直すことではないでしょうか。近現代史は微妙な問題だからという理由で、学校でもちゃんと教えていない。その結果、過去に起きたことについて、今の日本人は驚くほど知識がない。これは非常に危険であり、望ましくないことだと思っています」
(未)
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